「目玉おやじ」の目回し事件


はじめに

目玉おやじ」は、白川 裕記さんが、創作したLEGOブロックで作った世界最小の二足歩行ロボットです。

ほび〜しょっぷ・デジラで通信販売することになり、先行して販売予約を受け付けたところ1ロット100台の製造予定で、第七ロット、700台の予約があったそうです。

ZD NET Newsでもニュースとして取り上げられ、一時は正規サイトにアクセスが集中し、接続不能になるほど話題になりました。

ところが、初ロット発売の2003年2月7日の直前になって、レゴジャパンより待ったがかかったのです。

今現在、その本当の理由は明らかにされていません。しかし私は、この処置について大きな疑問と、不満を持ちました。

私は、デジラさんとも、白川さんとも、面識はあるものの、利害関係はまったくありませんが、私なりに私に不満を解消すべく、2月7日未明に、レゴジャパンにFaxで質問を送りました。

以下がその文面です。


レゴジャパン株式会社 御中

埼玉県〓〓〓〓〓〓〓〓〓

牧野 繁

mailto:

拝啓

貴社ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。

さて、ZDNN:ニュース速報を読み、貴社が、「ほび〜しょっぷ・デジラ」が、行おうとしていた、「目玉おやじキット」の販売に中止要請(注1)したことを知り、大変驚き、そして残念に思います。

 私は、ほび〜しょっぷ・デジラとも、白川裕記氏とも一切利害関係を持つ者ではありませんが、どういった理由で中止要請を行ったのでしょうか。

レゴブロックに似せた、製品を製造販売したり、他社がそのキャラクターの意匠、著作権を持つものを販売することができないのは、法律上当然のことですが、本件の場合、著作権を有する、水木プロダクションの公認を得ており、使用している部品は、貴社純正品を使用したものです。また、貴社の純正キットではないことも明記されています。

いわば、被服のボタン店が、そのボタンを使って別の会社がデザインし、販売する洋服のキットを自分のボタンをそのような形で使用しないよう要請していることと、類似した内容に思えます。

これがもし、軍事用の兵器類や、いわゆるアダルトグッズなど、貴社のイメージとかけ離れたもので、たとえ「貴社と無関係」と明記したところで、貴社に悪影響を及ぼすものであれば中止要請するのも仕方ないことと思います。

しかし、本件は、永年子供達に愛読され、浸透しているキャラクターであり、貴社のイメージを傷付ける物でないことは明らかですし、著作権上の問題も先に述べたとおり問題が無いことも明白です。

いずれの形にしても、正規の手段で入手したレゴブロックを使ったキットを、貴社以外が販売することを、制限もしくは禁止しようと言う意図であれば、それは公正な取引とは言えず、大変横暴な行為と言わざるを得ません。

永年貴社製品を愛用したものとして、このたびの一件につき、十分再考され、「目玉おやじキット」の販売を認めるよう切に要望いたします。

少なくとも、どういった事情で、中止要請を行ったのか是非お返事くださいますようお願いいたします。また、お返事を頂きました折は、その内容を変えることなく、私が公開させていただきますので、その点あらかじめご了承ください。

敬具

(注1)レゴジャパンは、「販売中止を要請したわけではない」と主張しています。


これに対して、2月7日 11:07amに、レゴジャパンの担当の方からメールが届きました。

本社と協議中なので、返答は待ってほしいとの趣旨の内容です。

そうか、このようなことでも本社決裁が要るのかと驚きました。それじゃ、本社に言ったほうがよさそうだと思い、Web Siteを探し回り、メールフォームを見つけたのですが、Countryのリストにない場所からは、送れず、

Thank you. We're sorry but we are unable to provide email support for your country at this time. Please feel free to browse our web site where you will find the answers to many frequently asked questions (FAQ link). Telephone numbers and further contact details for your nearest LEGO office can be found on the contact page.

と表示されます。

日本の連絡先として載っているのは、当然、

LEGO Japan Ltd.
22-8, 2-Chome, Yanagibashi,
Taito-ku
J-Tokyo 111-8675
Japan
Tel +81 3 3863 0505
Fax +81 3 3865 1769

で、これを見てFaxを送ったが埒があかないので、本社の連絡場所が知りたいのでした。

メールを受けないなら、こっちにもFaxを送るしかあるまい。

LEGO Company
Global Company Communications
DK-7190 Billund
Denmark
Tel +45 79 50 60 70
Fax +45 75 35 33 60

へたくそな英語で、メールを書きFaxで送信しました。


販売権

今現在、レゴ本社、レゴジャパンからの回答はありません。幸い、レゴジャパンは一方的に販売を禁止しているのではなく、とデジラは、この件について協議をしているそうです。

「純正レゴブロックを使ったキットを販売する行為禁止する権利をレゴ社は持っているか」

それが、今回の事件の最大の鍵になると思います。

http://www.anyidea.info/medama/kit/faq.html

に、白川さんが書いているように、外国では、

のように、純正レゴ部品を使った、レゴ社以外が設計創作したキットが販売されています。

しかし、本件は日本で行われている事件であり、日本の国内法が適用されるため、この例は参考にしかなりません。

レゴの商標がレゴブロックについているから、それを使ったキットにも「商標権」が存在するでしょうか?これはないと思います。各種電気製品は、さまざまな部品メーカーの部品で組み立てられ、その部品には、各部品メーカーの商標がついています。

セットメーカーが、それらの部品を購入し所有権を得た時点で、それをどう使うか、どういう製品に仕上げるかを決定する権利は、セットメーカーに移転しており、部品メーカーはそれを制限することは一般にできません。

但し、部品販売にあたり、別途使用法に関する契約が二社間でなされている場合は、この限りではなく、その契約は有効となります。電子部品の場合は、生命維持に関する装置、航空機、宇宙船などに使用することを禁止する条件をつけているのが普通です。

小売されているレゴブロックには、そういった特別の売買契約が結ばれていないので、著作権法で保護されている内容を除けば、所有者は、どう使うか、転売するか、廃棄するかを自己の意志に基づいて行えると考えるのが妥当でしょう。

デジラは、購入したセットを部品単位に分け、ばら売りしているのは、そうする権利があるからです。

では、レゴ社と無関係に独自に開発設計セットを販売する場合はどうでしょうか?私は、もしレゴ製品の調達にあたり特別の契約をしていない限り、そうする権利はデジラにあると思います。

逆に、そうした権利を持つ者に、メーカーとしてレゴ社が制限をつけるとすれば、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)第2条第6項に定める「不当な取引制限」と思われます。

どこまでの制限が、同法に違反するか、それはケースバイケースだし、法律の専門家ではない私にはわかりません。

幸い公正取引委員会には、公正取引委員会の電子窓口があり、問い合わせをすることができます。

早速、問い合わせをしました。

東京都台東区柳橋2-22-8-7レゴジャパン株式会社(以下、甲という)は、2003年2月6日、甲が製造する製品を小売する山形市大字上桜田字荒屋敷151-1有限会社ジェネシス(以下、乙という)は、甲が製造するレゴブロック(以下、本件部品という)を正当な手段により入手し、独自に設計した本件部品を組み合わせて作るキット(以下本件キットという)を通信販売により小売発売しようと試み、WWWホームページ ( http://www.genesys-net.co.jp/digila/lego/medama.php )にて、販売予約を受け付け、約700件の注文を受けたが、甲はこれに対し、本件キットの販売を取りやめるよう指示した。
これは、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第2条第6項に定める「不当な取引制限」と思われる。

ZDnetのニュース記事を参考文書として送信しました。同委員会の返答があれば、公開したいと思います。


公正取引委員会の回答

2/13午前中に、公正取引委員会の係りの方から電話をいただきました。正式な回答は、後日郵送していただけるそうですが、結論を述べれば「独禁法」に抵触する内容ではない、との事でした。


問題解決

http://www.genesys-net.co.jp/digila/lego/medama.phpによれば、

2003年2月14日−ほび〜しょっぷ・デジラは、レゴジャパン株式会社から、「 弊社オリジナルキット「目玉おやじキット」を弊社が販売することについて問 題は無い。」という連絡をいただきました。

との事で、当事者2社間により、問題解決しました。最も望ましい形での解決に、関係者各位に拍手を送りたいと思います。


レゴジャパンの正式回答

2月19日、レゴジャパンより正式なご回答をいただきました。


日ごろより格別のお引き立てを賜り厚く御礼申し上げます。

先日牧野様よりいただきましたファックスのお返事を下記に添付してお送りさせて頂きます。

牧野様へのご回答はこの件の検討に関して、レゴジャパンならびにレゴ社より依頼された、弊社顧問弁護士による

回答でございます。ご確認のほどよろしくお願いいたします。

拝 復  

 時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。

 貴殿の平成15年2月7日付けFAXに対し、ご回答申し上げます。ご回答が遅れ申し訳ございませんでした。

 「ほび〜しょっぷ・デジラ」の「目玉おやじキット」(以下「本商品」といいます。)の販売自体については、同社に対し問題がないことをお伝え致しました。ただし、本商品の宣伝広告における「LEGO」商標の使用方法については、協議することになっております。

 なお、本商品の販売中止はデジラ社の自主的な判断に基づくものであり、当社はデジラ社に対し正式な販売中止要請を行ったものではありません。

 以上よろしくご高配の程お願い申し上げます。


目玉おやじEXキットが発売される

2003年2月14日に問題は解決したかに見えましたが、その後も一向に「目玉のおやじキット」は、発売に至りませんでした。恐らく、公表できないような、さまざまな障害が発生したことは、容易に想像できることです。

また、3月中には...といっていた、公正取引委員会からの公式文書も、未だに届きません。

しかし、今日3月27日になって、すばらしい進展がありました。

「目玉のおやじキット」は、「目玉おやじEXキット」にパワーアップして、遂に発売されることになったのです。目玉のおやじに、「おまけ」として、レゴマインドストーム ロボティクスセット RDS (Robotics Discovery Set)が、ついているのです。

もちろん、「目玉のおやじ」「ロボティクスセット」として、それぞれで使えるのは当然として、MindStorms SDK2.5が、無償でDownload出来る現在、USB LEGO Towerを買い足せば(注2)(残念ながら現在在庫切れのようですが)、BricxCCで、RIS (Robotics Invention System)に、ほとんど近い使い方が出来ます。

関係者の皆さんに、改めて拍手をお送りします。

注2: USB LEGO Towerは、ツクモロボコンマガジン館でも、単独で購入できます。但し、デジラに比べるとだいぶ高価です。


公正取引委員会の公式文書

2003年4月15日付けで、公正取引委員会の公式回答文書が郵送されてきました。

すでに、電話で回答をいただいているので見るまでもないと思いますが、お約束なので公開します。ただ、「違反がない」という、通達だけで裁判のようにその理由を記述するわけではないということは、ちょっと勉強になりました。

裁定を行ったのだから、その理由を述べるのが当然かと私は考えますが...


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