ところがその2日後、様子は一変した。この日は全く一睡も出来なかった。ものすごい焦燥感と、憂鬱な気分に襲われた。当然ながら出社できない。
「憂鬱な気分」というのは、鬱病の本や、関連するホームページに良く出てくるし、普通の人だって、たまには憂鬱になると思う。でも、この病気の「憂鬱な気分」というのは、「普通の憂鬱な気分」とは、質的にも量的にも全く違うものだ。この病気にかかった色々優れた文人が、すでに苦労してさまざまな表現しているので、私があらためてそれを補う努力をしても、ほとんど無駄とは思うのだが、ともかく凄い。
酷い二日酔いになると、結構、罪悪感と、後悔と、気持ち悪さと、頭痛と...にさいなまれることがあるのは、酒飲みならたいてい経験があると思う。あれの、気持ち悪さだけを軽減し、そのたの不快感を256倍にしたようなものと私はいいたい。
ほとんどパニックになって、朝すぐ医者に駆けつけたのだが、対応はかなりそっけなかった。
「1晩寝られなければたいてい悪くなります。まだ治療は始まったばかりで薬はそんなにはやく効きません。おととい『わりといい調子』と聞いたので、そのまま処方し、この程度の薬で騙せれば幸いと思ったけど、一番弱い眠薬だもの...。もうちょっと強いのにしましょう。それと抗鬱薬も増やしましょう。それでも寝られなかったら、いくらでも薬の種類はあるのでいってください。寝られないのが一番良くない。でも、気分が悪いのは、薬が効き始めるまで、もうちょっと我慢してください。私の治療が信用できないなら別の大きな病院を紹介しようか!?」
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デュプロメール25mg
朝夕 2錠 |
ナウゼリン 10mg
朝夕 1錠 |
ハルシオン 0.25mg
寝る前 1錠 |
ところが週末6/16になるとますます酷くなってきた。焦燥感が高まり、食べる物の味がほとんど感じられない。それ以前の問題として、なにか胸に詰まった感じで、全然食欲がなく食べられない。正直にいうと「あっちの世界」に行きたいと結構本気で考えている自分に気づき、ますます焦った。
変えてもらった睡眠薬のハルシオンも、実は全然効かなかった。要するに寝られないのだ。月曜日になって、もう我慢できないと思い、とんでもない頭痛、恐ろしい焦燥感、そして吐き気が変りばんこに襲ってくる中、別の精神科医に行ったのであった。
次々と医者を変えるのは「ドクターショッピング」といって、たいてい治療効果があがらず、しまいには医者の方で嫌気がさすというか、患者を信用しなくなりマイナス面が多い。特に精神科の患者は、精神科以外の各診療科を含めドクターショッピングする者が多いらしい。
それを知りながら、ドクターショッピングするのは、結構気が重かった。でも「私の治療が信用できないなら別の大きな病院を紹介しようか!?」は、結構、ムカッと来た。もし元気が残っていたら、抗議したと思うけど、そんな元気はなかったし、もうひとつ気になることがあったのだった。
じつは、私には気管支喘息の持病もあり、家庭医として前からお世話になっている内科医がいる。今回精神科を受診するにあたり、私はそのことを相談しなかったのだが、妻が息子の腹痛でこの医院をたずねた折、私に無断で、私が、鬱病で○○精神科を受診した事を伝えたところ...
「まあ、精神科は、先生と患者との相性というか話し易さが、重要です。もしなんでしたら、Aクリニックの医師は、知り合いなので、紹介しましょうか?」といったというのである。
私が精神科を受診した事を、相手が我家で良くお世話になる家庭医とは言え、私に無断で告げた事に立腹したが、ちょっと時間が経ち冷静になると、「もしも私が医師だったとして、具体的にすでにある医院を受診していると聞いているのに別の医院を紹介するというだろうか?」と考えた。
もし紹介するとすればつぎのパターンだと思う。
- 先輩、後輩、同僚など人的関係が深く、紹介すると相手の医師に感謝してもらえる。
- 単に別の選択肢もあることを告げたかった。
- 実は、○○精神科の悪い評判を知っている。
正解は未だわからない。でも、私は、もう一度○○精神科をたずね、「もう少し我慢を...」または、「別の大きな病院を...」のいずれも聞きたくなかった。それは、ドクターショッピングする気の重さと天秤にかけるまでもなかった。
6/18 朝、予約無しで行ったので90分以上はゆうに待たされた。そして、ドクターは結構困惑しているといった。私が転院する意思があることを最初に告げなかったためである。転院する意思はもちろんあったのだが、それは当然その医師が、「○○精神科」より、ましな事が前提である。だが、それは転院してみなければ当然わからない。そこで、私は、「セカンドオピニオンがほしい」とお願いしたのだった。だが、これも結構むちゃな話である。
もしこれが他の診療科で、正式に主治医に「セカンドオピニオンがほしい」とお願いしカルテや、レントゲン写真や、その他検査データーを持って、別の医師に相談したなら、それは多分正しい。
でも、私は主治医に依頼していないし、精神科は、問診によって病状を判断するのであって客観的なデーターがもともとすくない。それ以前の問題として、「セカンドオピニオンがほしい」というのは、私の口からでまかせ、方便であり、「○○精神科」より、ましと私が判断したら転院したい。そのためにはなんでも良いから、医師と結構複雑な話をして、その人間性を見たいというのが全く失礼な話なのだが本音なのだ。
「これはA病院で、盲腸の手術をし、突然B病院を訪ねてその後の経過を説明しろといわれているようなものです。」とその医師はいった。全くもっともな話である。私は、処方された薬を次々に出し、説明を聞いてみた。丁寧に説明してくださったがこう付け加えた。「もし転院して最初から治療をやり直すという事なら、もちろんそれをとめる事は出来ません。でも、私が転院を勧めるような事は、出来ないのです。あなたがなさっているのは余りに中途半端な事なのです。」
すで、診察室に入ってから30分近くたっていた。私は転院を決意した。
驚きだったのは、その医師は、その日の午後に『予約』を割り込ませて用意してくれたのだった。
そしてその日のうちに、もう一度あらためてその医院を訪問し「初診」を受けた。この時も30分以上かかり、結論としては、「鬱病というよりは、不安神経症抑鬱状態がもし病名を付けるとしたら近いと思う。仕事は休み、薬を飲んで『何もしない』ように...」ということだった。
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デパス 1mg
朝昼夕 1錠 |
ドクマチール50mg
朝昼夕 1錠 |
ロヒプノール 2mg
寝る前 1錠 |
ところがである。『何もしない』は、仕事人間、会社人間には、全く拷問に等しい。
「読書も駄目ですか?」
「どんな本を?刺激の少ない小説などなら、すこしはいいです。」
「えー、エレクトロニクス関係の専門書なのですが。」...
一瞬目つきが険しくなって、「あのー、仕事をしないでほしいといっているのですが!」(^^;
実は、こうしてコンピューターに向かうのも禁止されているのである(^^;
実際、あまり暇なので、6/22 中学校の体育祭を見に行ってみた。応援団の歓声、真剣に疾走する選手達...
自分でも、予想外だった。実は目眩がして耐え切れなかったのである。よたよたと家に帰った...が、これもまずかった。
帰り道に、鶏肉工場があって、つぶされる鶏の断末魔の悲鳴が聞こえた。思わず耳を覆い、やっとの思いで逃げ帰った。良しにつけ悪しきにつけ、『心がうごく』とこの病気はそれなりに「こたえる」のである。やっと、ようやく、自分が病気である事を自覚したのだった(;_;)
その事を6/25医師に伝えると、頓用薬を処方してくれた。
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デパス 1mg
朝昼夕 1錠 |
ドクマチール50mg
朝昼夕 1錠 |
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ロヒプノール 2mg
寝る前1錠 |
パキシル 10mg
寝る前 1錠 |
セルシン5mg
不安発作時 1錠 |
仕事駄目、読書駄目、運動会の見学も駄目、その他「感動するもの」、「心が激しく動くもの」全部駄目...となると、一体何が良いのだろう。「気分転換に旅行でも」...実はこれは最もいけないものの一つらしい。環境の変化がストレスになるし、自死念慮を抱くこの病気の患者は、危険であるそうだ。
禅僧の様に、壁座して、座禅でも組めば良いのかもしれないが、私は無信教だし、今から修行をはじめても、「心動かさず」その域に達するには手遅れだろう。
軽いスポーツが良いと聞いたが、私は余りスポーツ好きでない。強いて言うと「水泳」が得意なので、試しにちょっと行ってみた...が、駄目だね、これは。ゆっくり水中歩行するとか、自分のペースを守って、遠泳する気持ちでやれば良いのだが、なまじ経験があるので、ついつい中級コースを泳いでいる皆さんと競ってしまう(^^;「何もしない、なにも考えない、『無の境地』などとは全く無縁の、競争心むきだし」になっている自分にふと気付き、修行の不足と、選んだスポーツが、まずかった事に気付いた。
案の定、不安定になり、頓用に用意していたセルシンでしのぐ。
ではなにが良いのか?「散歩」がいいらしい。でも、一人であてなく散歩するのは結構大変だ。こんな時、犬でも飼っていたらよかったと思うのだが、気管支喘息に、けもののペットは禁物である。仕方なく、愛機Nikon F3をぶら下げて、写真撮影をしに行く振りをして散歩に出かける(^^)
私がこんな具合なので、家族には結構迷惑をかけていると思う。もともと神経がちょっと過敏な長男は、神経性の腹痛でしばしば学校を遅刻したり休むようになっていた。どうも私が休んでいる事が影響している様に思えてならない。その事で妻もかなりカリカリ来て、Aクリニックのドクターは、妻にもデパス0.5mgを処方した。
でもそれぐらいでは、なかなかうまくない。親子喧嘩が始まると、それはどこにでもある家庭のつまらないひとこまなんだが、「病気」の私には、相当こたえる。「私がこんなだからこうなる」との罪悪感、怒鳴り合う騒音、どっちも相当辛いのだ。ともかくなんでも悪い方に考える病気なのだ、「一家崩壊」が結構本気で脳裏をよぎる。
- 私が精神病院に入院する。
- 私が実家に避難する。
- 子供を実家に預ける。
幸いにして実家は車で5分もかからない距離にあるので、子供を疎開させても通学区域内なのだ。6/28 とりあえず実験的に長男だけ、実家に疎開させることにした。
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